1978年KAWASAKI Z1-R(KZ1000D1)

下単屋の存在意義はこのモデルを無くしては語れません。
それくらい思い入れが強く、また下単屋の看板マシンでもあります。

そんな私が愛してやまないZ1-R誕生のお話をしましょう。

初代Z。King of motorcycleと呼ばれた900SuperFour(Z1)ですが、
徐々に牙城が揺らぎはじめます。
1975年までヨーロッパ耐久選手権で無敵を誇った現地ディーラーチューンのZ1が、
ホンダがZの勢いを阻止せんと出撃させたワークスRCBにチャンピオンの座を奪われたのを機に、カワサキはZのてこ入れを行うことを決定します。

1977年に発売されたZ1000(KZ1000A1)は、これまでのZ1シリーズの排気量903.2ccから1016ccに拡大され、最高出力はZ1が82hp/7000rpmに対して83hp/8000rpm、
最大トルクも7.5kg-m/7000rpmに対して8.1kg-m/6500rpm。
ゼロヨンはZ900の12.5秒から11.9秒。最高速200km/hから212km/hとZ1シリーズを上回る性能を与えられます。またリアブレーキをディスクブレーキ化、スイングアームピボットニニードルローラーベアリングを採用と車体面でも進化しました。
しかし手の入れようがないほど完成されていたZ1シリーズのデザインはZ900A4で若干サイドカバーの形状が変更された程度でした。
だが、このZ1-Rで900SuperFour(Z1)から続く曲線美を活かしたデザインから一転。
カワサキは、当時のカフェレーサーブームという背景とも相まって、
大型フェアリング、ローポジションのステアリングなど車体構成を大きく変更し、
直線を基調としつつも微妙な曲線美を加え、日本刀をイメージさせるような、
唯一無二のフォルムをこのマシンに与えました。

これにはデザイナーのただならぬ拘りがありました。
当時ヨーロッパ製カフェレーサーも曲面構成のパーツが多く、
デザイナーとして新鮮を狙うのであれば他の手法を用いたい。
そうするとおのずと直線を主体としたものが見えてくる。
流麗な曲面構成の従来のZのスタイルからの脱却の必要性もありました。
しかし歴史を振り返っても直線主体のデザインのオートバイが成功したことはあまりなく、
試作段階で日の目を見ずに終わるものがほとんどでした。
モーターサイクルは大きな二つの真円、前後ホイールがあり、これがかなりの割合を占めます。円に直線構成の外装を融合させるのはカバードタイプでもない限り極めて難しいということが、これまでの通例でありました。

にもかかわらず、Z1-Rは充分な開発期間を経て発表され、Z1、Z900A4、Z2、Z750Four、Z1000(KZ1000A1A2)といった曲線美のZから脱却、進化を果たします。
スペシャルなカフェレーサースタイルを除く車体構成では、Z1000(KZ1000A2)を踏襲しつつも、前後ブレーキディスクは国産車初の穴あきタイプ。レーサーライクな前後18インチのキャストホイール。大容量の膨張室を持つ4in1の右側一本出しエキゾーストシステム。

パワーユニットに関する変更は前述の排気系と吸気系ではキャブ口径を26mmから28mmに変更しこれらにより、最高出力90hp/8000rpm、最大トルク8.7kg-m/7000rpmと向上したが、開発はあくまでも外観重点が置かれていたのが伺えます。

その主な例が手の込んだフロントブレーキシステム。マスターシリンダーをフロントフォーク横に設置してレバーからはワイヤーを介して接続し、ステアリング周りをスタイリッシュに纏めるといった拘りよう。コクピットを想わせるメーター周りも専用開発された新設計部品が多く、デザイン面でのコストは多くかけられていました。
果たしてZ1-Rはジャーナリスト達に珠玉のデザインと評価され絶賛されました
がそれもつかの間。予期せぬ事態が起こります。
ヨーロッパでのリコール騒動。

要因は、フロント18インチによるトレール量の不足に加え大型フェアリングも影響し、高速度域での走行安定性に乏しくウォブリングを引き起こすというもの。

またデザインを重視した13Lのスリムなタンクは、ドイツアウトバーンのような長距離を走る場合、1Lでも多いほうが良いとされ不評。ドイツ仕様では早速、上下左右に伸ばされた22Lの不恰好なタンクに換装されました。

さらに、追い討ちをかけるように他メーカーの新型車が台頭。
DOHCユニットを搭載したヤマハXS1100、同じくDOHC6気筒を搭載したホンダCBX1000がZ1-Rをスターダムから引きずりおろします。Z神話を崩すことはカワサキにとっては危機。遂には急遽Zシリーズの見直しが始まりました。
これが1978年の話。1977年に1978年モデルとして発表されたZ1-Rの栄光は僅か1年で儚く消え去っていくのです。

いかがですか。ブームやメーカーブランディング、レースシーンからの影響といった様々なものを背負って生まれてきたZ1-R。

当時のカタログにあるようにPORCHE911の傍らにスタイリッシュに佇む姿。
惚れ惚れする眺めです。これこそがカフェレーサーの定義。
いつものカフェに乗りつけ、いつものドリンク片手に愛車を眺めて悦に入る。
バイク乗りにしか味わえない贅沢です。

ところでポルシェ911。その特徴である、リアエンジンにリアドライブという構成は、
自動車工学的見地では極めて運動性能が悪く無理な設計だそうです
以来、ポルシェの技術進化はその特異な基本設計との闘いであると言われています。
そのため”十字架を背負わされた車”という異名まで。

何か似ていませんか。しかし残念ながらZ1-Rには技術進化は与えられませんでした。

前述した欠点を補い誕生したZ1R-llも1979~80年という短期間で役目を終えます。
ただ初代Z1の栄光を受け継ぎ、次世代Zの方向性を決めたと言っても過言ではないZ1-R
。そう”十字架を背負わされたZ”です。

狙ってなのか、たまたまなのか、業界の異端児が並ぶ姿は感慨深いものです。

愛すべきZ1-Rとともに日々業務に勤しみ、現代の手法でZ1-R の魅力をお伝えすべく日々頭を巡らせている下単屋です。